事例検討におけるガイドライン
医療ソーシャルワーク 事例検討におけるガイドライン
■はじめに(倫理的配慮への基本的考え方について)
昨今の医療機関では、カルテの共用化、電子カルテといった動きが広まってきており、私達医療ソーシャルワーカーは、記録を共有化する他の専門職に対して、プライバシーに充分配慮しながら、医療ソーシャルワークの独自の視点を示して行く必要性が増大してきている。
IFSW(日本医療社会事業協会・日本ソーシャルワーカー協会・日本社会福祉士会・日本精神保健福祉士協会)による「医療ソーシャルワーカーの倫理綱領」(改訂最終案)によると、プライバシーの尊重、秘密の保持はもちろんの事、記録の開示が明記されている。
記録が医療ソーシャルワーカーだけのものではないことを、私達は自覚しなければならない。
また、近年個人情報の漏洩トラブルが多発し社会問題となり、個人情報保護法が平成17年4月1日より完全施行された。私たちは個人情報取扱事業者としての自覚を持ち、個人情報の利用目的を出来る限り特定し、利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならない。
静岡県医療ソーシャルワーカー協会は、「医療社会事業の発展を期するために会員相互の協力により、医療ソーシャルワーカーの資質を高め、地位の向上を図り、もって公衆衛生の向上と社会福祉の増進に寄与することを目的とする」(第2条)を掲げる職能団体である。
今までも県協会・各地区研究会をはじめとして、有志による勉強会等で、事例検討が行われてきた。
事例提出にあたっては、当然利用者のプライバシーに配慮しているわけだが、今まではそれを明確に評価する基準がなかった。
そこで、県協会の会員で行う事例検討には、利用者のプライバシーにきちんと配慮でき、現任者はもとより、初任者の医療ソーシャルワーカーの事例検討にも対応できるような基準をここに作成することとした。
■事例検討における倫理的配慮のチェックリスト
- 私達医療ソーシャルワーカーは、社会福祉専門職団体協議会の定める「ソーシャルワーカーの倫理要綱」をふまえ、事例検討にあたっては、個人のプライバシーに十分配慮する。
- 事例検討会に事例を提出する際には、その事例提出の目的を明確にすること。
- 事例を施設外に提出する際には事前に所属長の了解を得、サイン(印鑑)をもらう。
所属長は、事例提出目的を確認の上、事例の具体的記入方法・チェックリストに鑑み、個人情報が特定できないか慎重に判断すること。 - 事例対象者本人・家族に対しては基本的に了解を得ることとする。その際書面で了解を得ることが望ましい。口頭で了解を得た場合については、ケース記録等にその旨を記入すること。
しかし、本人の死亡・過去の終了ケースなど、実際には了解を得る事が難しいケースであって、所属長の了解を得たケースについてはその限りではない。その際にもケース記録等にその旨を記入すること。 - カルテ・相談記録などは施設の所定の場所で保管し、施設外へ持出さない。コピー禁止。
- 会場で資料を配布する際、回収し施設に持ち帰り適切に廃棄することとする。配布枚数が多いなど、回収された枚数が確認しづらい場合については事前にナンバリングを行い、正しく回収が行われたかを確認する必要がある。ただし、回収の必要性がないことを事例提出者の所属長が認めた場合は、その限りではない。その際用紙を持ち帰った者は、適切に廃棄するまで、責任を持ってプライバシーの保護に努めなければならない。
- 事例検討に直接関係ない事項については記載・発言しない。
- FDやCDの情報は、目的終了後、すみやかに消去する。
- 事例検討終了後、参加者はその内容を口外しない。
■事例の具体的記入方法・チェックリスト
●氏名
「A」から順に(ABC…)表記する。姓と名を分ける必要なし。
Aから順に記入することにより、イニシャルではないかとの憶測を避けることができる。
●住所・TEL
記入しない。事例上住所地に重要な意味を持つ場合は「過疎地在住」等とする。
●年齢
年代で表記。「60代」「20代後半」等。実年齢は重要な意味を持つ場合のみ。
●学校・会社名
記入しない。「大学生」「会社員」等とし、事例上重要な場合でも「医療関係従事者」等具体的名称を避ける。
●施設名
施設名は記入しない。「Z」から順に(ZYX…)表記すると氏名と混同せず、イニシャルではないかとの憶測を避けられる。「Z病院」等の記入とする。
●病歴
必要な場合のみ「心疾患」「精神疾患」等総称で記入する。
●入退院(所)日
記入しない。必要な場合は「入院後一週間で退院」等とする。
●出生・死亡日
記入しない。必要な場合は「入院後一週間で死亡」等とする。
●家族構成
必要最低限のみとし、必要な時のみ記入。
>>ジェノグラム(家族構成図)の書き方(Word:43KB)
●健康保険者名
必要な場合のみ「組合」「政管」「国保」等記入する。
●介護保険
介護度等については必要な時のみ記入。
●各種手帳制度
(身障・療育・精神)必要な時のみ手帳の有無について記入する。詳細な障害名・等級は事例上重要な意味を持つ場合のみとする。
●公費制度
必要な時のみ記入する。
●初回面談日
記入しない。終了面談日も同じ。「入院後3日目に初回面談を行った」等とする。
●経済状況
必要な時のみ記入。事例上重要な場合のみ「生保受給中」等とする。
●ADL・IADL
必要な時のみ記入。
●その他基本情報
必要事項のみ記入する。