保健医療機関における社会福祉士実習指針
Ⅰ 社会福祉士実習指針作成の経過
社会福祉士養成において、平成18年度より実習機関に保健医療機関が含まれ、そして平成21年度からの新カリキュラムでは、実習指導者の要件に「社会福祉士」が求められることになった。この動きに対して、静岡県医療ソーシャルワーカー協会では平成20年度、社会福祉士実習受け入れ状況の実態調査を行った。その結果は、本会において社会福祉士実習受け入れに積極的でない機関が圧倒的に多いことが明らかとなった。
このような現状が続けば、保健医療機関における社会福祉士の後進育成が進まず、将来的には医療ソーシャルワーカーの質の低下を招きかねない。そこで本会では、「保健医療機関における社会福祉士実習」を受け入れる意義を明らかにし、将来の患者の最善の利益につながるよう「社会福祉士実習指導者指針」を作成することとした。
Ⅱ 社会福祉士実習改正の内容について→実践力の高い社会福祉士の養成
①科目名
「社会福祉援助技術現場実習」→「相談援助実習」「実習の質の担保と標準化」を目指す
②実習指導者要件
- 社会福祉士有資格者
- 社会福祉士資格取得後、相談援助業務3年以上従事した経験を有する者
- 社会福祉士実習指導者講習会修了者
③相談援助実習のカリキュラム内容
ねらい
- 相談援助実習を通して、相談援助に係る知識と技術について具体的かつ実際的に理解し実践的な技術等を体得する。
- 社会福祉士として求められる資質、技能、倫理、自己に求められる課題把握等、総合的に対応できる能力を習得する。
- 関連分野の専門職との連携のあり方及びその具体的内容を実践的に理解する。
教育に含むべき事項
- 学生は次に揚げる事項について実習指導者による指導を受けるものとする。
- 相談援助実習指導担当教員は巡回指導等を通して、次に揚げる事項について学生及び実習指導者との連絡調整を密に行い、学生の実習状況についての把握とともに実習中の個別指導を十分に行うものとする。
- 利用者やその関係者、施設・事業者・機関・団体等の職員、地域住民やボランティア等との基本的なコミュニケーションや人との付き合い方などの円滑な人間関係の形成
- 利用者理解とその需要の把握及び支援計画の作成
- 利用者やその関係者(家族・親族・友人等)との援助関係の形成
- 利用者やその関係者(家族・親族・友人等)への権利擁護及び支援(エンパワメントを含む)とその評価
- 多職種連携をはじめとする支援におけるチームアプローチの実際
- 社会福祉士としての職業倫理、施設・事業者・機関・団体等の職員の就業などに関する規定への理解と組織の一員としての役割と責任への理解
- 施設・事業者・機関・団体等の経営やサービスの管理運営の実際
- 当該実習先が地域社会の中の施設・事業者・機関・団体等であることへの理解と具体的な地域社会への働きかけとしてのアウトリーチ、ネットワーキング、社会資源の活用・調整・開発に関する理解
※「社会福祉士学校及び介護福祉士学校の設置及び運営に係る指針について」より一部抜粋
Ⅲ 保健・医療機関において社会福祉士実習を行うことの意義
①保健医療機関側
(1)個人レベル
- ソーシャルワークを行う社会福祉士であることを再認識すると同時に、後進の指導者としての役割を果たす立場であることを自覚することができる。
- 日常業務を「理論と実践」の枠組みの中で捉えなおす機会を持つことができる。実践しているソーシャルワークの援助方法やソーシャルワークの価値観について、再認識することができる。
(2)機関レベル
- 実習を受け入れるための準備の中で、機関での社会福祉士の役割や、ソーシャルワーク部門の位置を再確認することができる。
- 一般社会では、保健医療機関内でソーシャルワークが行われていることを理解されていないことも多く、認知度も低い。医療機関が社会福祉の一端を担っていることを社会に向けて発信することになり、社会的認知を高めることができる。
②養成校側
- 保健・医療機関で行う社会福祉士の実践は、「ソーシャルワーク機能」が表面化していることが多く、体系的に理解しやすい。そのため、実習生にとって実習を通して具体的な「社会福祉士像」を理解できる。
- 実習プログラムにおいて「職場実習」→「職種実習」→「ソーシャルワーク実習」の段階を踏んだ実習を行いやすい。
- カリキュラム内容に即した実習プログラムを実施しやすい。
Ⅳ 保健・医療機関において社会福祉士実習を受け入れることの責務
よりよいソーシャルワークを継続していくためには、社会福祉士自身の自己研鑽が必要である。自己研鑽の方法は多様にあるが、その中の一つに「他者に伝えること」を通して学ぶ方法がある。私たちの周囲には様々な他者が存在しているが、ソーシャルワークを学ぼうとする実習生も他者である。
これまで、教えを乞う側にいた者が、指導する側に変化する際に戸惑いや不安を感じるのは当然のことである。正解が一つではないことが多い、ソーシャルワークを指導することは、実習指導者側の身体的・精神的負担感を伴うことにつながりやすい。この負担感を実習指導者が一人で抱え込む必要はない。社会福祉士は日常業務の中で様々な相談を行っているはずである。養成校の実習担当教員にも臆することなく、同様に相談すればよい。双方で考えることで、更に学びの深さを加えることとなり、よりよい実習プログラムを展開することができる。
現在、社会福祉士がソーシャルワークを行うことができる要素には、社会福祉士自身の努力や意欲だけではなく、クライエントとの出会いが含まれる。クライエントと出会わなければ、社会福祉士としての成長もない。そして、私たちも年齢を重ねていく。社会福祉士としての働きを永遠に行うことはできるわけではない。これから出会うクライエントが社会福祉士と共に考えていける環境を作り上げるために、継承者となる次世代の社会福祉士を養成する必要がある。この養成を行うことが現在のソーシャルワークを行っている私たちの責務である。
(平成23年4月1日作成)